カナダの移民政策について〜その3・まとめ〜

こんにちは、Pigionです。

 

前回、カナダの移民史を紹介したところで、今回はカナダの移民政策についてまとめ、考察をしたいと思います。

 

前回見たように、カナダ🇨🇦は、18世紀以降、様々な移民に関する政策を経て現在の多文化社会を実現しています。

 

元々は、17世紀初め、フランス人の入植から始まり、その後のフランスとイギリスが戦争し、以降イギリスによる植民地支配が続きます。その間、アイルランドアイスランド、イギリスを中心に移民が入植し、アメリカからもロイヤリストが押し寄せました。また、移民輸送の為の、貿易会社の立ち上げや、カナダ国内でのインフラ、交通網の整備及び産業発展に努めました。

この時期のイギリスからの移民を中心とした受け入れには、アメリカ移民によるカナダ略奪を防止するため、また、カナダ国内の産業を発展させるためやイギリスの貧困者にカナダで土地を与えるため、など様々な目的がありました。

 

さらに2度の大戦中にはユダヤ人を中心とした移民の受け入れ、在カナダ日本人の収容を行いました。第二次世界大戦以降はハンガリーなど東ヨーロッパからの難民に加え、南アジア、南米など非ヨーロッパ系移民が増加し、彼らは見た目によって移民であると判断できたため、”Visible minority”と呼ばれるようになりました。以降、移民に対する国内の反発も増え、指導者が変わるたびに移民政策も練り直されてきました。

 

また、20世紀後半にかけては、フランス系カナダ人によるイギリス系カナダ人に対する反発が激化、テロが勃発しました。カナダは翌年、多文化主義宣言を採択することで、対立を鎮静化しました。その後、カナダ経済の発展には移民が必要という考えから、門戸を解放するカナダの移民政策が安定し、現在でも毎年20万人の移民を受け入れています。

 

イギリス系とフランス系の対立はカナダだけではなく、例えばカメルーンでも発生しており、カメルーンではカナダのような共存社会は実現せず、今日に至るまで、内戦が続いています。

 

多文化主義についても、欧州のリーダーたちは難民の危機が勃発した際に、難民を受け入れた結果、治安が悪化し、その政策が失敗であったと明言しました。そしてイスラム系移民によるテロがドイツ、フランス、イギリスなど欧州各地だけで続き、その結果、アメリカでは、反移民主義を掲げるポピュラリズムが台頭、トランプ政権が生まれました。この傾向は欧州にも伝播し、各国でポピュラリズムを掲げる政党が急激に支持を伸ばしました。白人によるムスリムに対するテロ行為も起きました。

 

一度は理想として叫ばれた多文化主義が欧州でみるみるうちに崩壊する中、世界で最も多文化な国家であるカナダではどのようにして多文化主義をこれほど長い間、一度も内戦を起こすことなく、維持してきたのでしょうか。これはカナダの歴史が比較的短い一方、欧州ではすでに既成の文化や風習があったからでしょうか?

たしかにスウェーデンでは、移民と住民の争いが絶えない理由として、移民はスウェーデンの学校に行き、仕事を見つけることを求めている一方、住民は移民がスウェーデンの文化や言語を理解し、それを受け入れることを求めている、との声もあります。もしそうだとすると、何千年という歴史を有する日本は、カナダではなく欧州での失敗から学ぶべきなのでしょうか?

 

ここでPigionの意見を述べます。

まず欧州において、多文化主義が成功しなかった一つの要因は、欧州に大量の難民を受け入れる準備ができていなかったことです。この難民の危機はシリア戦争によって勃発したものですが、欧州ではそのような大量の難民が押し寄せてくることはもちろん想定していなかったにも関わらず、難民を受け入れざるを得ない状況に直面しました。二つ目に難民の危機で押し寄せた移民の多くがムスリムであったことです。欧州は人権という概念が生まれた場所であり、世界において、最もリベラルな国々の集まりです。一方で、ムスリムは伝統的な価値観や宗教を持ち、それらは欧州が考える人権とは合致しない部分が多くあります。それらの多様な価値観に対応する準備も整っておらず、国民の理解を得られないまま受け入れることとなりました。三つ目に、急激に押し寄せたこれらムスリムのほとんどが、家族単位での移住であり、またその数が多かったために、彼らの中での団結感がすでに存在し、マイノリティとして、欧州の文化や宗教を受容するという考えがなかったことです。つまり、多文化主義といっても、移民の出身国の割合がどこか、またそれらの各国のバランスも重要なのです。もしも、今回の難民危機で大量に押し寄せた移民が日本人であったならば今日に見るような欧州とは別の姿があったでしょう。

 

日本でも同じことが言えます。つまり、日本は欧州ほどリベラルではないものの、欧州の基本的人権の価値観等は共有しています。一方、ムスリムの価値観を共有する部分が多くあるわけでもありません。そこで、日本に比較的近い文化や価値観を持つ国々、例えば東南アジア等からの移民を受け入れてバランスを保てば、ある程度の共存が可能と考えられます。しかし、カナダのように世界に向けて移住者を募るとなれば、話は別であり、事前の準備や国民の理解を得て行うことが重要です。そして、やはり日本の文化や価値観を受け入れられ、また移民の価値観も受け入れられる体制を整えなければ、そこで移民政策は失敗となります。(これが可能かどうかは別ですが…)

そしてこれは政策一般に言えることですが、移民政策にもこれが正解というものがなく、失敗を経験して今のカナダがあるように、日本も今後様々な試行錯誤をしていくことと思います。それも、カナダが経験した以上に厳しい困難や試練が待ち受けていることでしょう。もちろん欧州の失敗から学ぶことは多くありますが、今後日本が移民をさらに必要とすると判断する時代が来た場合には、歴史的文化や背景は違うといえ、カナダ人の多文化主義に対する考え方や政策を学ぶことは、1つの勉強になると考えられます。